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京都地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決 1983年9月30日

京都市東山区祇園町南側五七〇番地二六七

原告

藤本八重

訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

京都市東山区馬町通東大路西人新シ町

被告

東山税務署長

福田法夫

指定代理人検事

浦野正幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

原告が、昭和五四年七月二三日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分所得税の更正処分(異議決定によって一部取り消された後のもの・以下本件更正処分という)のうち、分離長期譲渡所得金額が一六六三万九八九五円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(異議決定によって一部取り消された後のもの・以下本件賦課決定という)を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、日本舞踊の師匠であるが、昭和五四年三月八日、被告に対して昭和五三年分の所得税の確定申告をしたところ、被告は、昭和五四年七月二三日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

原告は、これを不服として、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、両処分の一部を取り消す旨の異議決定をした。

原告は、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、これを棄却する旨の裁決をした。

確定申告から裁決までの経過及びその内容は、別表1記載のとおりである(以下本件更正処分及び本件賦課決定を合わせて、本件処分という)。

2  原告の昭和五三年分の分離長期譲渡所得金額は、確定申告額のとおり一六六三万九八九五円であるから、本件更正処分のうち同額を超える部分は、所得を過大に認定した点で違法である。したがって、本件賦課決定も違法である。

3  結論

原告は、本件更正処分のうち、分離長期譲渡所得金額が一六六三万九八九五円を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する答弁と主張

(認否)

請求原因1の事実は認めるが、同2の事実は争う。

(主張)

1 譲渡収入金額について

(一) 原告は、昭和五三年四月一九日、訴外京商住宅株式会社との間で、原告所有の別紙物件目録一記載の(一)ないし(四)の不動産(以下それぞれ(一)土地、(二)建物、(三)土地、(四)建物といい、合わせて本件不動産という)を代金一億三七五六万八〇〇〇円で売買する旨の契約を締結し、同年七月二二日、その履行を終った。

右売買価額は、(一)土地及び(三)土地の面積が坪数に換算(平方メートルの数値に四〇〇分の一二一を乗じて算出した)すると、それぞれ三〇・八九坪、五五・〇九坪で、合計八五・九八坪であるところ、一坪当たりの価額を一六〇万円とし、これを右坪数に乗じて決定された。

(二) 原告は、右売買契約当時、(一)土地及び(二)建物を自らの居住の用に供し、(三)土地及び(四)建物を訴外今井四郎及び同菅沼俊子に賃貸していた。

(三) 本件不動産のうち、租税特別措置法(昭和五四年法律第一五号による改正前のもの・以下法という)三五条に定める居住用財産に当たる(一)土地及び(二)建物(以下居住用財産部分ともいう)の譲渡収入金額は、(一)土地の前記坪数に一坪当たりの価額一六〇万円を乗じて算出した別表2の居住用財産欄の<1>記載のとおりであり、法三七条に定める事業用資産に当たる(三)土地及び(四)建物の譲渡収入金額は、(三)土地の前記坪数から同様の計算によって算出した同表の事業用資産欄の<1>記載のとおりである。

2 取得費について

(一) (二)建物は、原告が昭和四二年一〇月訴外村崎建設株式会社に八〇〇万円で請け負わせて建築した。

(二) (一)土地、(三)土地及び(四)建物は、訴外亡藤本清兵衛が、法三一条三に定める昭和二七年一二月三一日以前に取得し、昭和四一年四月二八日に訴外人の養子となった原告が、昭和四八年七月三一日訴外人の死亡に伴い相続によって取得した。

(三) 本件不動産の売買は、実質的には土地だけの取引であるから、取得費は、法三一条の三に基づき譲渡収入金額の百分の五に相当する金額である。したがって、居住用財産部分及び事業用資産部分の取得費は、それぞれ別表2の<2>記載のとおりである。

3 譲渡に要した費用について

(一) 本件不動産の譲渡に要した費用のうち、次の(二)及び(三)の費用を除くものの明細は、別表3の1記載のとおりである。これを、居住用財産部分及び事業用資産部分のそれぞれの譲渡収入金額に応じて按分すると、それぞれ別表3の1の(1)及び(2)記載のとおりとなる。

(二) 居住用家屋の取毀しによる資産損失

原告は、(二)建物及び(四)建物を買主に依頼して取り毀したが、そのうち判明している(二)建物の譲渡現在の取得費(減価の額の合計額を控除した金額)は、別表3の2記載のとおりであるから、右金額を居住用財産部分の譲渡に要した費用に含めた(昭和四五年七月一日付直審(所)三〇「所得税基本通達」三三-八参照)。

(三) 貸家からの立退料

原告は、(三)土地及び(四)建物の明渡しを受けるため、今井四郎及び菅沼俊子に対し、別表3の3記載のとおり立退料を支払った。

(四) (一)ないし(三)によると、居住用財産部分及び事業用資産部分の譲渡に要した費用は、それぞれ別表2の<3>記載のとおりである。

4 事業用資産の買換えの特例の適用について

(一) 原告は、昭和五三年五月一二日(売買契約締結の日は、同年四月二六日)、本件不動産を譲渡した代金の一部で、訴外サンヨーフアンド株式会社から別紙物件目録二記載の(一)及び(二)の不動産を四〇〇〇万円で買入れた。右買入れに付帯する費用は、別表4の2記載のとおりであるから、右不動産の取得費は、別表4の3記載のとおりである。そして、土地と建物とで右取得費を按分し(別表4の4記載のとおり)、建物のうち、原告が日本舞踊の師匠として事業の用に供している部分の面積割合により、その部分の取得費を計算すると、別表4の5記載のとおりとなる。

(二) 右の事業の用に供している部分は、法三七条一項の買換資産に当たるから、事業用資産部分の前記譲渡収入金額(別表2の<1>)から買換資産の右取得費を差し引いて、別表2の事業用資産欄の<5>記載のとおり事業用資産部分の買換えによる圧縮後の譲渡収入金額を算出した。

(三) (二)に伴い、事業用資産部分の前記取得費及び譲渡に要した費用のうち、必要経費とするものを別表2の事業資産欄の<6>記載のとおり算出した。

5 居住用財産の買換えの特例の適用について

居住用財産部分の譲渡所得金額の計算についてに、法三五条一項を適用して、特別控除額三〇〇〇万円を控除した。

6 分離長期譲渡所得金額について

1ないし5によると、原告の昭和五三年分の分離長期譲渡所得金額は、別表2の計欄の<9>記載のとおり六六五八万五三六一円となる。

7 まとめ

したがって、本件更正処分は、原告の分離長期譲渡所得金額の範囲内でされたものであるから、適法であり、同様に、本件賦課決定も適法である。

三  被告の主張に対する原告の答弁及び主張

(認否)

1 被告の主張1の事実は認める。

2 同2(一)の事実は認める。(二)の事実のうち、原告が昭和四八年七月三一日(一)土地、(三)土地及び(四)建物を相続により取得したことは否認し、その余の事実は認める。(三)の事実は争う。

3 同3(一)の事実のうち、本件不動産の譲渡に要した費用として、別表3の1記載のとおり支出したことは認める。(二)の事実のうち、原告が(二)建物及び(四)建物を買主に依頼して取毀したことは認めるが、(二)建物の取得費は争う。(三)の事実は認める。(四)の事実は争う。

4 同4(三)の事実は争う。

5 同5の事実は認める。

6 同6の事実は争う。

(主張)

1 取得費について

(一) 原告は、昭和四五年一二月一七日、藤本清兵衛から、遺言書と題する書面により、藤本清兵衛の当時負っていた一切の債務を重畳的に引き受けるという負担付で、(一)土地、(三)土地及び(四)建物の贈与を受けた。

(二) 原告が重畳的債務引受をした藤本清兵衛の債務の内訳は、別表5記載のとおりであり、原告は、本件不動産を譲渡した代金でこのすべてを弁済した。

(三) そうすると、右債務相当額は、本件不動産の取得費に当たる。

2 所得税法六四条二項の適用について

仮に右債務相当額が取得費に当たらないとしても、所得税法六四条二項により、右債務相当額は、本件不動産の譲渡による所得の金額の計算上、なかったものとみなされる。

3 譲渡に要した費用について

原告は、本件不動産の譲渡に要した費用として、被告の主張3(一)ないし(三)(別表3の1ないし3)の費用のほかに、別表6記載のとおり支出した。なお、同表の5、6記載の支出については、予備的に取得費として主張する。

四  原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張1の事実は争う(なお、原告は、当初自ら(一)土地を昭和四八年七月三一日相続により取得したと主張していたものである)。

2  同2の事実は争う。

3  同3の事実のうち、別表6の3、4記載の事実は認めるが、これらが譲渡に要した費用に当たることは争う。その余の事実は不知。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件処分には、原告の昭和五三年分の分離長期譲渡所得金額を過大に認定した違法がある、と主張するから、この点について順次判断する。

1  被告の主張1の事実(譲渡収入金額・別表2の<1>)は、当事者間に争いがない。

2  取得費について

(一)  原告は、昭和四五年一二月一七日藤本清兵衛から、遺言書と題する書面により、藤本清兵衛の当時負っていた一切の債務を重畳的に引き受けるという負担付で、(一)土地、(三)土地及び(四)建物の贈与を受け、本件不動産を譲渡した代金により重畳的に引き受けた右債務を弁済したから、右債務相当額は、取得費に当たると主張するから、この点について判断する。

(1) 官署作成部分の成立に争いがなく、原告本人尋問の結果によってその余の部分の成立が認められる甲第二号証の「自己清兵衛の負担になる債務支払ひ後残余全財産の一切を藤本八重に贈する」との記載部分、証人上田昭一の証言や原告本人尋問の結果中には、原告主張の事実にそう記載や供述部分がある。しかし、これらの記載や供述部分は、後記認定の事実と対比して採用できないし、ほかに、この事実が認められる証拠はない。

(2) 却って、前掲甲第二号証、成立に争いがない乙第三号証、同第五、第六号証、証人上田昭一の証言によって成立が認められる甲第一七号証の一、原告本人尋問の結果によって成立が認められる同第一八号証、同証言及び同本人尋問の結果によると次のことが認められる。

(ア) 甲第二号証の書面は、遺言書と題されているが、民法の定める方式に従ったものではない。

同書面の前記記載部分は、「遺言者藤本清兵衛」が「遺言する」内容として記載されているが、藤本清兵衛の債務を引き受けた筈の原告が、それを承諾した趣旨の書面を作成して債権者に差し出したり、藤本清兵衛の生前中、その債権者に対し、引き受けた債務の弁済をしたことはなかった。

原告は、この遺言書の趣旨を、藤本清兵衛が死んだときに借金が残っていたら原告の方で払わなければならないと受け取っていたにすぎない。

(イ) 藤本清兵衛の親戚に当たる訴外藤本かめの、同横山佐助及び同今西君子は、昭和四六年九月、藤本清兵衛に対し、別紙遺言書写のとおり藤本清兵衛の所有財産につき原告が相続人としてなす一切の法律行為に対して異存はない旨を記載した覚書と題する書面を差し入れているが、同書面には別紙遺言書写の添付がない不完全なものである。

(ウ) 藤本清兵衛は、昭和四八年七月一〇日、川瀬米蔵に対し債務確認書を提出したが、同書面には、借主として藤本清兵衛の署名押印はあるが、その債務を引き受けた筈の原告の署名押印がない。

(エ) 原告は、(一)土地、(三)土地及び(四)建物について、甲第二号証作成当時、遺贈又は贈与の登記手続をとらず、昭和五三年四月七日になって訴外上田昭一に依頼して、昭和四八年七月三一日相続を原因とする所有権移転登記手続をした。

(3) 以上認定の事実によると、原告が、右遺言書によって、藤本清兵衛の債務を重畳的に引き受けたとすることは到底無理であり、このとき負担付贈与が行われたとするわけにはいかない。

(二)  藤本清兵衛が昭和二七年一二月三一日以前に(一)土地、(三)土地及び(四)建物を取得したこと、原告が昭和四一年四月二八日藤本清兵衛の養子となったこと、藤本清兵衛が昭和四八年七月三一日死亡したこと、以上のことは当事者間に争いがない。

そうすると、原告は、(一)土地、(三)土地及び(四)建物を、藤本清兵衛の相続人として遺産相続するとともに、原告主張の債務も相続によって承継取得したわけであるから、原告主張の債務相当額が取得費になり得ないことは、いうまでもない。なお、(二)の建物は、原告が昭和四二年に建てたものであることは、当事者間に争いがない。

(三)  本件不動産の譲渡価格は、土地の面積に、単価坪当たり一六〇万円を乗じた価格となっていること、原告が(二)建物及び(四)建物を買主に依頼して取り毀したこと、以上のことは、当事者間に争いがないから、本件不動産の売買は、実質的には土地だけの取引であるといえる。

そこで、売却された本件不動産を、居住用財産部分及び事業用資産部分に分けて所得税法六〇条、法三一条の三に従って各々の取得費(各譲渡収入金額の百分の五)を計算すると、それぞれ別表2の<2>記載のとおりとなる。

3  所得税法六四条二項の適用について

原告は、本件不動産の譲渡につき所得税法六四条二項の適用があると主張するが、その主張が、前記負担付贈与の事実を前提としていることは、明らかである。しかし、この事実が認められないことは、既に述べたとおりであるから、この主張は、この点で採用できない。

原告は、本件不動産の譲渡代金を、原告が相続によって負担した原告自身の債務の弁済に充当したのであるから、同条項の適用の余地がないことは、その文言に照して明白である。

4  譲渡に要した費用について

(一)  原告が、本件不動産の譲渡に要した費用として、別表3の1記載のとおりの各譲渡費用を支出したこと、原告が(二)建物を買主に依頼して取り毀し、(二)建物の譲渡現在の取得費(減価の額の合計額を控除した金額)が少なくとも別表3の2記載のとおりであること、原告が、(三)土地及び(四)建物の明渡しを受けるため、今井四郎及び菅沼俊子に対し、別表3の3記載のとおり立退料を支払ったこと、以上のことは当事者間に争いがない。

(二)  原告は、譲渡に要した費用として、(一)の他に別表6記載のとおりの金員を支出したと主張するので、各項目ごとに判断する。

(1) 取毀し費用(別表6の1)

原告は、(四)建物の取毀し費用として、訴外山一工務店に一五〇万円を支払ったと主張し、これにそう書証として甲第九号証の一(昭和五三年五月一二日付山一工務店作成名義の建物解体費五〇万円の原告あて領収証)、同号証の二(同年七月二四日付同じく一〇〇万円の領収証)を提出し、証人上田昭一の証言中には、これにそう供述部分がある。

しかし、前掲乙第三号証、同第五、六号証、成立に争いがない甲第六号証、同第九号証の三、同第一三号証の一ないし四、乙第四号証、同第一八号証によると、本件不動産の売買契約書には、「本物件は現状有姿をもって授受される」、「売主は買主に対し建物の減失並びに取毀しを依頼しその協力費用として金一五〇万円を売主から買主に支払う」、「借家人の明け渡し期限は、昭和五三年六月末日とする」、「売買物件の減失並びに取毀し日については、七月一日以降直ちに買主にて行う事を売主、買主共に合意した」との約定があったこと、訴外山本春子こと王春子は、昭和五三年七月二四日原告から(一)土地及び(三)土地の所有移転登記を受けた者であるが、それ以前に訴外新川建設に(二)建物及び(四)建物を取り毀させ、その費用三〇五万八五〇〇円を支払い、その一部である一五〇万円を同月二二日原告に負担させたこと、(四)建物の借家人今井四郎に対する最終の立退料は、同年六月二七日に支払われたこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

右の認定事実に照らすと、今井四郎の立退きが当初予定していた同年五月中ごろより遅れたため、(四)建物を原告の責任で山一工務店に依頼して取り毀し、代金一五〇万円を支払ったとする証人上田昭一の証言中の前記供述部分は採用できないし、甲第九号証の一、二も採用できない。そして、ほかに、原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 支払手数料(別表6の2)

原告は、本件不動産の譲渡に関する手数料として、訴外株式会社西口経営センターに一三〇万円を支払ったと主張し、証人上田昭一の証言によって成立が認められる甲第一〇号証の四(昭和五三年一二月二五日付訴外会社から原告に対する御計算書と題する書面)、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第二一号証の一、二及び同証言中には、これにそう記載や供述部分がある。

しかし、成立に争いがない乙第一九号証、証人上田昭一の証言によって成立が認められる甲第八号証(上田昭一が本件不動産の譲渡に関して作成した帳簿)及び同証言の一部によると、甲第八号証の帳簿には、甲第一〇号証の四の書面上は既に入金済となっている訴外会社に対する三〇万円の支払いが、記帳されていないこと、訴外会社は、今井四郎及び菅沼俊子と立退きの交渉をしたことも、また、本件不動産と隣家との境界確定の際に立ち会ったこともないこと、以上のことが認められ、この認定に反する証人上田昭一の証言の一部は採用しないし、ほかに、この認定に反する証拠はない。

右の認定事実や原告が残りの一〇〇万円の領収証を証拠として提出しないこと、上田昭一は、原告から仲介手数料として五〇〇万円の支払いを受けていること(当事者間に争いがない)、原告の主張する一三〇万円の算定根拠が明らかでないこと、以上のことを総合して勘案すると、甲第一〇号証の四、同第二一号証の一、二及び証人上田昭一の証言中の前記記載や供述部分は採用できず、ほかに、原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

原告は、同じく本件不動産の譲渡に関する手数料として、中村貞次郎に一〇〇万円を支払ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。却って、前掲乙第三ないし第六号証及び証人上田昭一の証言によると、右の一〇〇万円は、原告が訴外京都信用金庫から中村貞次郎らを保証人として四〇〇〇万円を借り入れた際の謝礼であったことが認められる。

(3) 登記費用(別表6の3)

原告が訴外野村事務所に登記費用三七万五七〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

しかし、前掲乙第三ないし第六号証、成立に争いがない甲第一一号証の五ないし七によると、右の三七万三七〇〇円のうち、昭和五三年四月六日に支払った一八万三四〇〇円(甲第一一号証の五)は、本件不動産の京都地方法務局同月七日受付第一一八一八号の根抵当権設定登記手続(債務者原告)をするための費用であること、同月六日に支払った一七万一七〇〇円(甲第一一号証の六)は、(一)土地、(三)土地及び(四)建物の同月七日受付第一一八一五号の所有権移転登記手続(所有者原告、原因昭和四八年七月三一日相続)並びに本件不動産の昭和五三年四月七日受付第一一八一六号の仮登記抹消登記手続(原因同月六日放棄)及び同月七日受付第一一八一七号抵当権抹消登記手続(原因同月六日放棄)をするための費用であること、昭和五三年七月二二日に支払った残りの一万八六〇〇円(甲第一一号証の七)は、本件不動産の同月二四日受付第二五六六八号登記名義人表示変更登記手続及び同日受付第二五六六九号根抵当権抹消登記手続(原因同月二二日放棄)をするための費用であること、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、右の登記手続費用は、いずれも本件不動産を譲渡するために直接要した費用ではないから、譲渡に要した費用に当たらない。

(4) 居住家屋の取毀しによる資産損失(別表6の4)

原告が(二)建物を村崎建設株式会社に八〇〇万円で請け負わせて建築する以前に、原告が同訴外会社に七〇〇万円で請け負わせて建築中であった建物が、火災によって焼失したこと、原告が焼失した建物の工事代金五六〇万円を同訴外会社に支払ったこと、以上のことは当事者間に争いがない。

しかし、焼失した建築中の右建物は、(二)建物とは別個の建物であるから、右五六〇万円は、居住家屋の取毀しによる資産損失に当たらない。

(5) 支払利息(別表6の5)

前述のとおり、原告は藤本清兵衛の権利義務を遺産相続によって相続したのであるから、仮に原告が藤本清兵衛の借用金債務の利息を支払ったとしても、それは、自らが相続によって負担することになった債務を履行したにすぎない。したがって、右の支払利息は、譲渡に要した費用及び取得費のいずれにも当たらない。

(6) 公租公課(別表6の6)

(5)と同様の理由により、藤本清兵衛の公租公課の支払は、即、自らの債務の支払であるから、譲渡に要した費用及び取得費のいずれにも当たらない。

(7) その他必要経費(別表6の7)

原告は、その他必要経費として、四万六四〇三円を支払ったと主張し、成立に争いがない甲第一六号証の一、同号証の三ないし六、同号証の一一ないし一三、証人上田昭一の証言によって成立が認められる同第一六号証の二、同号証の七ないし一〇及び同証言によると、原告が駐車料金、水道料金、電気料金、カフスボタン代金等を支払ったことが認められる。

しかし、これらが本件不動産の譲渡に直接要したものと認めるに足りる証拠はないから、原告主張の右金額が譲渡に要した費用に当たるとすることはできない。

(三)  (一)及び(二)によると、居住用財産部分及び事業用資産部分の譲渡に要した費用は、それぞれ別表2の<3>記載のとおりとなる。

5  事業用資産の買換えの特例の適用について

被告の主張1の事実及び原告が明らかに争わないから自白したものとみなされる同4(一)の事実によると、(三)土地及び(四)建物の譲渡については、法三七条一項の事業用資産の買換えの特例が適用される。

そうすると、事業用資産部分の買換資産の取得価額並びに買換えによる圧縮後の譲渡収入金額及び取得費、譲渡に要した費用のうち必要経費とするものが、それぞれ別表2の<4>ないし<6>記載のとおりとなることは、計算上明らかである。

6  居住用財産の買換えの特例の適用について

法三五条一項の居住用財産の買換えの特例の適用により、原告の居住用財産部分の譲渡所得金額の計算に際し、特別控除額として三〇〇〇万円が控除されることは、当事者間に争いがない。

7  まとめ

以上によると、原告の昭和五三年分の分離長期譲渡所得金額は、別表2の計算により同表の計欄の<9>記載のとおり六六五八万五三六一円となる。そうすると、この範囲内でされた本件更正処分は適法であって、原告の所得を過大に認定した違法がないことに帰着する。したがって、これに伴う本件賦課決定は違法である。

三  むすび

以上の次第で、原告の本件請求を失当として棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小田耕治 裁判官 西田真基)

物件目録

(一) 京都市東山区四条通大和大路東入祇園町北側三〇六番

宅地 一〇二・一四平方メートル

(二) 同所同番地

家屋番号 同町二九番

木造瓦葺二階建店舗

一階 九一・九〇平方メートル

二階 七五・三七平方メートル

(三) 京都市東山区四条通大和大路東入祇園町北側三〇七番

宅地 一八二・一一平方メートル

(四) 同所同番地

家屋番号 同町二八番

木造瓦葺二階建店舗

一階 五九・八三平方メートル

二階 四〇・九九平方メートル

物件目録二

(一) 京都市東山区四条通大和大路東入祇園町南側五七〇番二六七

宅地 七一・七三平方メートル

(二) 京都市東山区祇園町南側九部五七〇番地二六七

家屋番号 同町五七〇番二六七の一

木造瓦葺二階建居宅

一階 五四・六五平方メートル

二階 五二・一七平方メートル

別表1

課税の経緯

<省略>

別表2

譲渡所得金額の計算内容

<省略>

別表3

譲渡に要した費用の内訳

<省略>

別表4

買換資産の取得費

<省略>

別表5

藤本清兵衛の債務の内訳

<省略>

別表6

譲渡に要した費用(原告の追加主張分)

<省略>

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